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「すみません、今日はボンベイサファイア切らしてしまいまして……」
わずかに目を細めた少々凶悪になる厳つい顔も絵になる。
「珍しいな」
そう、このビルのオーナーが彼の会社になってからと言うものの以前に増して頻繁に来てくれるようになった彼の為に、ボンベイサファイアは切らさない様極力多めに仕入れていたことを彼は知っている。
「今日はボンベイを気に入ってくれた方がいまして」
「そうか」
さして興味もなさそうに言い、並べてあるお酒に目をやる仕草はどことなく思案顔でそれもまた様になる。あれからそんなに付き合い方が変わったわけではないが、俺は確実に彼に惹かれていた。
「じゃあリベットをロックでもらおうか」
「はい」
この人はお酒を目で飲んでいるのではないかと思う。取り出したグレンリベットのボトルはボンベイサファイアの瓶程目を惹くものではないがそれでも深い透明なグリーンをしており、ボンベイとはまた違うお洒落なものだ。
「もしかして海が好きですか?」
ふと思い当ったことを尋ねてみれば、なんだ唐突にという顔をしつつも律儀に答えてくれる。
「好きだが、また急だな」
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