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「いえいえ、近いからこそそのまま家に帰りますよ」
この男は気が付けばうちから1分のところに部屋を借りていたと言う、俺からしたらストーカー以外の何物でもない行動が、近くに住んでいれば俺が気に入ってくれると勘違いしているのか越してきてからはしょっちゅうこうである。正直気持ち悪いし、怖い。
「響」
店の中で誰も呼ぶことのない俺の名前が呼ばれたことに俺自身も驚き彼の方を見ると、
「お前、今日終わったら付き合え」
とまるで男を挑発するようなことを言い、俺をハラハラさせる。男が彼を見る目は怒りに満ち溢れているが、彼は気にする事も無くロックグラスを傾けている。修羅場だ。
「おい」
男が彼の肩を掴んだが、彼が振り返りすっと目を細めると、先程までの勢いはどこへ行ったのか、その手をすっとひき、額に少々汗を滲ませながら少しひっくり返った声で
「ま、マスター…… また来るよ」
と投げ出すかのように1万円札を置いて逃げるように出ていった。
「あ、おつり……」
「もらっておけ、迷惑料だ」
しれっと言う彼に苦笑しながら、助けてくれたのかと嬉しくなる。彼に名前を呼ばれることが今後もあればいいのにと密かに願いながら、今日も夜は更けていく。
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