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「だめよ……逃げて」
私は言った。おそらく、ここで薬草を渡しても渡さなくても私は殺される。ならば、彼だけでも逃げて欲しかった。
彼は、首を振った。
「なんだ?お前、魔物か?」
強盗が、ちょっと萎縮したように問いかける。
「オレ、スライム」
__何をしようとしているんだろう?
彼は、私の方に安心させるように頷いてみせる。
「よく効く薬?オレ、知ってる」
「サシェ、離して」
「離して。魔物、嘘つかない」
「おいおい。本当だろうな。嘘だったら皆殺しちまうぞ?」
彼は、戸棚から、薬草瓶を一つ持って来る。
「これ」
それは、確かに彼が持ってきた薬草を煎じたものだった。手伝いをしてもらった時に覚えてしまったらしい。
「よし。おい。こっちに渡せ」
「サシェ、離してない」
男はちっと舌打ちして私を床に放り出した。身体が床でバウンドする。その時、私は見た。
スライムの彼は、人型のまま煎じた薬草を空中にばらまき、もとの液体のすがたになり、男に押し付けるようにして、内側に閉じ込めた。男は息ができないのか、薬の効果なのか、初めは必死にもがいていたのがだんだん収まり、最後にはぐったりと伸びてしまった。
「サシェ」
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