光の中の悪夢―天竜川の川漁師の話

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親方で恩人の伯父さんが引退して、それからまもなく他界したのを機として、とうとう祖父は、妻子には打ち明けられないその内面の事情から、すでに他の誰よりも熟達していたキンバを扱う仕事をやめて、長年親しみ合った気のいい仲間たちの元から去り、たった独りで黙々と炭焼きと川漁師の仕事をして、残りの世過ぎをするようになったのだった。そして祖父自身もなぜだかよく分からなかったと言うのだが、その間ずっと心のどこかでは、あの悪夢そのものである恐ろしい山姫が、どのようなかたちであってもよいから、もう一度目の前に出現してくれることを期待していたそうである。                             『山姫』了
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