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《Side:砂斗》
俺が開いた扉の前で固まっているお客さんの前で芹が手をパンと叩けば、目を数度パチパチした後、今回の依頼主はゆっくりと部屋へと入ってきた。
彼がソファーへと促せば、そのままポスンとソファーに落ちる。
「ようこそ、須和田有紗さん」
名前を言われて赤くなる彼女。
当然だ。
名乗ってもいないのに名前を呼ばれたのだから。
ただ、その反応が驚きではないのは、相手が芹だから。
王子様に名前を覚えてもらっているとなれば、どんな女も自分は特別なのではないかと勘違いをする。
しかし、芹にとって学園の生徒の名前を覚えていることは当たり前で。
全校生徒の顔と名前はすべて把握している。
「では、須和田さん。依頼の内容をどうぞ」
彼女は話す気があるのか、ないのか。
芹をぽーっと見つめるだけで、瞬きすらしない。
あながち、普段と違う芹の姿に見惚れているのだろう。
基本的に彼が人前で眼鏡を外すことはない。
素顔をさらすのはこの万事屋稼業の時のみ。
「須和田さん」
俺が声をかければ、彼女は弾かれたように俺を見た。
俺を見て我に返ったのか、彼女はゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
今回の依頼内容を。
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