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少年は眼前の光景を見つめていた。
今から五年前、鬼怒川市鬼怒川町の山奥の廃墟での出来事。
床に座り込む少年は呆然とした表情を浮かべ身じろぎ一つしない。
視線の先に広がる真っ赤な水溜まりには、ぐったりと仰向けに横たわる一人の男。
彼からは生気が感じられず、羽織っているグレーのコートに描かれているエンブレムは血に染まり、筋張った手はぴくりとも動かない。
白い顔をした男の左胸、心臓の辺りには十字架を模した銀の杭が打ち込まれていた。
二〇XX年、塔京都。
その都市では、年々凶悪犯罪が増加の傾向にあった。
やれ不況のせいだ、やれマスメディアのせいだと至る所で不安の声が上がる中、それらとは別に明確な一つの原因があることを人々は知らない。
水面下に隠されている『彼ら』の存在を知る人間はごく一握りの者だけだった。
猟奇的事件が増えると共に、治安要員に向く視線も厳しくなる。
『警察がふがいないために犯罪は増加し続ける』、『警察官になるなんて死にに行くようなもの』、そんな揶揄する声も上がった。
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