心臓に杭を打つ

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「本当バカだなー雅巳。ろくにケンカしたこともないくせに負けん気ばっかり強いんだから」  困り果てた様子でやれやれと首を横に振る牡丹の言う通り、赤星の方が明らかに怪我は多かった。  保健室を出た後も来須は視線を緩めることなく赤星を睨み付ける。 「他の誰が何と言おうと俺はお前を許さない。覚悟しておくんだな」  乱れた髪を神経質に整えながら来須は去って行った。異様に姿勢の良い来須の背中に赤星が言葉を返そうとするのを牡丹が宥める。  眉を顰めたまま校舎を出た赤星の後に牡丹も続いた。  寮舎へ向かう道中、赤星は牡丹の小言を聞き流しながら先程の来須の言葉を思い返していた。  『人殺し』  この言葉を言われるたび、赤星は頭が真っ白になりいつも自分の感情を上手く制御できなくなる。  赤星は五年前、死体と一緒に警察に発見されたことがあった。  鬼怒川市鬼怒川町の山奥の廃墟で目を覚ましたまだ幼い赤星の目の前には男の死体が横たわっていた。赤星は目が覚めるまでのその日の出来事を何も覚えておらず、殺人を犯したのではないかと疑われた。
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