心臓に杭を打つ

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 覚えているのは、目の前に広がる真っ赤な水溜まり。鮮血の中にぐったりと仰向けに横たわる生気の感じられない男。グレーのコートに描かれたエンブレムは血に染まり、筋張った手はぴくりとも動かない。  白い顔をした男の左胸、心臓の辺りには十字架を模した銀の杭が打ち込まれていた。  血生臭い記憶の全てが赤星の頭の奥にこびりつき、未だに目を閉じると瞼の裏に鮮明な映像が浮かぶようだった。  事件後しばらくして赤星の疑いは晴れ、児童自立支援施設などに入ることもなく普通の生活に戻ったが犯人は未だ見つかっていなかった。  事件の噂は狭い地元に瞬く間に広がり、幼かった赤星を苦しめたのは好奇の目。当時赤星は何度も両親に事件の事を聞こうとしたがその度にはぐらかされ、小学生だった赤星もだんだんと事件の話が家族の中でタブーであることに気付いた。  学校では『人殺し』と言われいじめられた。  赤星は来須に殴られた左頬に痛みを感じつつも、鞄を片手に寮舎へと荒く歩を進める。この学園でなら今度こそ自分の知りたいことを突き止められるはずだと赤星は自身に言い聞かせた。そうすれば謂れのない理不尽な罵倒を受けることだってもうなくなる。 「――雅巳ってば!」  はっ、と我に返った赤星は自身が怒りのままに牡丹を無視してしまっていたことに気が付いた。
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