心臓に杭を打つ

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「悪い……」  牡丹の説教に程々に頷きながら、赤星は強く拳を握りしめ決意を胸に固めていた。  寮舎にて不機嫌な赤星と別れた牡丹は、一人中庭で時を過ごしていた。先程赤星を探していた時に見つけた手入れの行き届いた花壇には色とりどりの花が咲いている。春を感じる光景をベンチから見つめながら牡丹は一つため息をついた。 「入学早々ケンカだなんて、本当心配かけるんだから……雅巳のバカ」  悪態をついた相手は、仏頂面のままゲームの誘いを断り真っ直ぐ自室へと帰って行った。  中庭にはちらほらと生徒達の姿がある。放課後を満喫する彼らの様子を眺める牡丹の耳に突如響いたのは叫び声だった。 「危ない!」  直後冷たい感触を感じる。突然の事に目を丸くした牡丹の金髪からぽたぽたと水滴が落ちた。  聞こえた声の主は、花壇に水をやるためにホースを伸ばしていた園芸部の女子生徒だったらしくこちらに駆け寄ってくる姿が見える。捻った蛇口に付けられたホースの先が水圧で跳ねたらしく、牡丹は頭から水を浴びてしまっていた。  申し訳なさそうな顔を浮かべる女子生徒の視線の先で、全身ぐっしょりと濡れた牡丹は突然の事に呆然としている。
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