戸惑い

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 何度電話しても繋がらない。メールにも返事がない。出張先で面倒な案件があったのだろう。最初の3日はその程度だった。  坂本と宮田はともに仕事が忙しく、会うのは週末だけ。それも出張が組み込まれると次週に延期になることもある。この1週間宮田はとりわけ仕事が忙しく、坂本から連絡がないことを大げさに考える暇がなかった。  追いつきたい背中は遠く、差はなかなか縮まらない。年齢差を変えることができないのならせめて実力を近づけたい。31歳と18歳なら峡谷のように横たわっただろう距離。しかし46歳と33歳なら遠い背中を視界にとらえることはできる。見えているのなら近づくことは可能だ。そう考えた宮田は精力的に仕事に取組み成果をあげつつある。  社内でも取引先の有能な社員として坂本は話題にのぼった。不用意に商談を持ちかけると潰される。熱意があっても裏付がなければ追い返される。宮田は直接坂本と関わることはなかったが、自分が成果を上げれば坂本の耳に届くとばかり仕事に邁進した。すべては坂本の背中に近づくために、そして追いつくために。  坂本と知り合うまでは仕事に対して特に思い入れはなかった。やるべき仕事を「こなす」日々。そこに多少の喜びはあったが、実際は苦労のほうが多い。他の業種や会社に転職しても仕事の本質が変わるとは思えなかった。宮田にとって仕事は生きるための賃金を得るものであり、それ以上でもそれ以下でもなかった。  しかしある日を境にすべてが変わった。  追いつきたい、捕まえたい。そう強く望む心に出会ってしまったのだ。そんな情熱が自分の中にあることなど想像もしていなかった宮田にはまさしく青天霹靂――それが坂本との出会いだった。
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