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俺はまた人の波に飛び込み、ぐいぐいと前に進むと、結城の腕を強く掴んだ。
結城はビクリと肩を震わせて、春馬を見る。
「はる、ま……」
名前を呼ぶのもおぼつかない結城の腕を掴んだままつれて、春馬は人の波をかき分けていく。
どうにか、落ち着ける場所まで連れて行こうとする。
縁日の脇は神社になっており、裏手に回ると、幸いなことに人がいなかった。
春馬は結城をコンクリートのたたきに座らせる。
「おら、あんなところで腑抜けみたいに立ってるんじゃねぇよ」
「うん……」
「危ないだろ」
「うん……」
「あのさ、結城さん」
「うん……」
「あー、昨日の晩飯何だったっけ?」
「うん……」
完全に聞こえていない。結城のシャツの前を、春馬は掴んだ。ぎゅっと強く。
「結城、現実に戻ってこい」
ふえっと気の抜けた表情の結城。春馬は容赦なく頭突きした。
「あ、いたぁあ」
「……っつ。俺だって、痛ぇよ。この石頭」
「うん……それは子供の頃からの自慢なんだ」
「そんな情けない顔で言われても説得力ないわ」
「ごめん」
「謝んな、それから、もうちっと顔をなんとかしてこい」
「無理だよ、親からもらった顔をなんだから」
「んなんじゃねぇよ」
「そうだね」
結城は悲しそうに笑った。
それから深く息をついた。
「情けない話なんだけどね」
結城は頭をかきむしった。
そうして、ぽつぽつと語り出した。
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