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「ねぇ」
結城は声をかけた。
「何だ」
そう返し、そのまま考えこんでいたら、急に後ろで気配がした。
え、と思っていると「そのまま」と声をかけられた。
結城が春馬の頭を優しく撫でる。労りの感情が強く伝わってくる。
春馬はどきまぎしながら、口を開けた。
「な、なんなんだよ。結城さん」
結城は少し黙っていたが、やがてうなだれるように春馬の首筋に頭を預ける。
くぐもった声で結は言った。
「ありがと、ね……春馬君……」
春馬は結城の行動を許した。自分でも甘ちゃんだなと思う。
でもこれ以外、結城を優しくする方法が分からない。
――どうか、少しでも。
――結城の心が。
蝉がぽとりと、近くの木の肌から落ちていった。
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