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結城の家まで春馬はついていくことにした。
二人で談笑しながら歩いていると、先に結城が足を止めた。
「蓮川さん……」
春馬は結城の言葉に導かれるように、前を向く。
眼鏡をかけた三十代くらいの細身の男性がいた。
深々と蓮川と呼ばれた男は頭を下げる。
「樫井さん、こんな夜分にすいません。大事なお話があって……」
結城の柔らかな表情は一変する。
そして春馬に硬い表情を向けた。
「ごめん、ちょっと、今日はここまでにして欲しい」
「えっ……ああ」
結城の急いた様子に、春馬は息を飲む。
こんなに表情を一変させることがあっただろうかと思った。
結城はごめんねと短く言うと、蓮川の元へと急ぐ。
何かあるのだ、あの人と……春馬は心の波がにわかに荒々しくなっていくのを感じた。
しかしここに、長居をしているわけにもいかない。渋々、春馬はその場から離れた。
イライラする。結城はどうして、あんなに不安そうな顔をしているの分からなかった。
良くない予感、けれどもどうすることも出来ない。
この時春馬は……何も気づけるはずがなかったのだ。
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