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とある変化
春馬と結城と食事をしている。
今日は豚の角煮を作ったのだという。しかしその味は少し微妙だった。
肉の処理が甘かったのか、臭みが残っていると言えば良いのか。だけど普段、飯を食べさせてもらっている分、春馬は結城にそのことを言えるはずがなかった。それにしても今日の結城の家は変だ。何だか現実味がない。豚の角煮の微妙な味の他に、スープもサラダもぴんと舌にくる味ではなかった。
「どうしたの? 春馬君」
「いえ……何でもないです」
「でも、浮かない顔をしているよ」
「……」
何だろう、結城はいつもと変わらない様子で対面してくれているのに、自分はそれを受け入れられない。
どうしてこんなに違和感を感じるのだろう……。
春馬は無心で食事をすすめた。結城は立ち上がり、食後の飲み物を準備しようとする。
それにしても、どうして自分はこの家に来たのだろう。この家に来たかったはずだけど、だけどそれは叶わなかった気がする。
ああ……またつきまとうような現実味のなさ……何なんだ、気持ちが悪い……!
そのじれったさに耐えきれなくなり、春馬はとうとう口を開いた。
「……何だろ」
「春馬君?」
「何か、おかしい……でも、何が」
結城はその言葉に静かに耳を傾けた。
それから、カップを床に落とした。
激しくガラスが砕け散る音。
床に広がる、ガラスのかけら達。
結城の目はぼんやりとして、光を失った。
そして、ぽつりと呟いた。
「それは、夢だからじゃないかなぁ」
反応する声を出すより先に、突然座っていた木の椅子が後ろにひっくり返る。
その途端に、漆黒の闇へと放り出される。結城の冷め切った目を見ながら、春馬は届かない手を伸ばした。
「どうか、あの人を……」
「どうか……から」
「いつまでも、今のままでは……」
闇に落ちていく、その間に、かすかな声が聞こえた。
透き通った、硝子のような声。か細く、けれども願いが込められたように聞こえる声。
白い手のひらが、春馬の顔を包むように現われて、冷えた感触を感じた。
布団を自分から引き剥がすように起き上がる。
「夢……?」
自分は夢を見ていたようだ。結城とそれからよく分からない夢を。
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