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時刻を見ると、もう昼近い。大学の授業がない日だから助かったと、春馬は胸をなで下ろす。
……結城とは二週間近く連絡がなかった。三日に一度は結城の家で飯を食べさせてもらったことを考えると、あり得ないほどに会わない日が続いていた。連絡を自分からとろうと思ったが、実はそんなことをほとんどしたことがないことに気がついた。
いつも結城が誘ってくれていたのだ。そう思うと、自分の受け身の姿勢が嫌になった。同時にこの間、マンションの前にいた結城の知り合いらしき男も気になった。あの時、結城の目が変わった。おびえが見え隠れしていた。
いったい、あの男は何なんだろう。気になってしょうがない、だけど、深く詮索してやぶ蛇になりたくない自分もいた。
揺れ動く心、その決心がついたのは母親の一言だった。
「最近、あなたのお友達を見ていないわね、病院で」
「え」
結城は予定が空きさえすれば、婚約者である真美の元へと訪れていた。それが自分の役割だと言わんばかりだった。そんな彼が、真美の元にすら行っていないなんて。ただ事じゃない、何かがあるはずだ。
春馬は拳を握った。
結果的なことを言おう。
春馬は結城の家に行った。そして接触に成功した。
チャイムを鳴らして、強く拳でドアを叩いて、春馬は結城を呼び出した。
結城は存外、それに従った。いや、正確に言えば頭がぼんやりとしすぎて、正確な判断が出来なかったのだろう。
いつものくせで出てしまったというのが正解だろう。
結城はそれくらいひどかった。
いつもきちんと整えられている髪は少し伸びている上に、うっすらとひげも伸びていた。
表情も薄暗く、顔色も悪い。青いを通り越して黒いくらいだ。
結城は春馬の顔を見た途端に驚いて、急いでドアを閉めようとした。しかしその瞬間を逃さずに、春馬は強引に部屋へと入り込む。
春馬は結城を見て、睨むように目を細める。
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