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号哭
春馬は目を見開いた。
「え」
「この間、家の前に男性がいたよね。あれ、真美のお兄さんなんだ。お兄さんが言っていた。真美の心臓が弱まっているって。このままでは、そういうことになるだろうって……そこで、家族で見守りたいと……僕は、これから別のパートナーを探さないといけないらしい」
それは以前から聞いていた病院での噂が、最悪な形で吹き出した。
春馬は何も言えず黙ってしまった。
結城は鼻を鳴らした。
「何だろうね。悲しいし、喪失の痛みってこんなに辛いのかと思う、それに寂しい、寂しくてあの姿を思い出すだけで痛々しくて……」
結城は何度も瞬きした。
「それなのに、どこかホッとしているんだ……もう、僕は真美と向かい合わなくていい。あの事故の原因を作ったという罪の結果を見なくていい」
「あれは偶然の事故じゃないのか」
春馬は頭を傾げた。結城は頷く。
「ああ、偶然だ。ただ、あの道が目的地の近道だと教えたのは僕なんだ。僕が言わなければ、真美はあの道を使うことはなかっただろう」
結城は拳を床に強く押しつけた。
「真美、赦してくれ……僕を、赦してくれ……」
結城は真美へ愛以上に赦しを求めていたのだろう。いつか目が覚めたら、口に出す言葉を決まっていたはずだ。だけどもう、その言葉を向けられない。春馬は結城の頬を掬うようになでる。結城は驚いたように目を見張る。
「今、冷蔵庫に何がある?」
「え」
「もうすぐ、夜じゃないか。飯、食べなきゃ」
「そんな気分には……」
「食べてくれ。自分のためじゃなくていい。俺のために食べてくれ」
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