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春馬は深く息を吐き、ごしごしと強く顔を擦るように上着で拭うと、料理を再開した。
それまでも丁寧にやったつもりだったが、もっと丁寧に、もっと上手にできるように。
食事ができあがるにつれて、魚の脂の匂いや、スープの柔らかな旨みに満ちた匂い。
白米が炊きあがる匂いが部屋中に満ちてきた。春馬は一生懸命に盛りつけをしていると、結城が身じろぎした。
様々な音や、匂いが、部屋を彩って、それで目が覚めたのだろう。寝ぼけ眼で、かすれた声で、結城は言った。
「夕ご飯ができたのかい?」
春馬は小さく頷いた。
「ああ、出来たよ。結構頑張ったんだ、食べろよ」
結城は申し訳なさそうな表情を必死に取り去ろうと頭を横に振った。
そして春馬の厚意に報いるように、目を細めた。
「ありがとう、ああ、楽しみだよ」
一拍、間を置いて。
「君と食べるのが」
春馬は目を大きくした。
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