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ただ、隣にいよう
「な、なんなんだよ。急に」
春馬は思わずどきまぎしながら言ってしまった。
結城は一瞬目を丸くして、それから自分の言葉を深く噛み砕いて考えてしまったのか、恥ずかしそうに頭をかいた。
「あ、いや……深い意味はないんだ。ただ、その、素直になってしまった……」
「素直?」
「ああ……嬉しかったんだ。ただ、それだけなんだ」
「……」
春馬はその言葉に何も言えなくなる。それはこっちのセリフだと思うが、そんなことはとても言えない。
春馬も結城と一緒にいる時間がとても大事だった。二人で会話を交わす心地よさ、時間を共有しているという贅沢さ。
何よりも、嬉しい。生きていることに意味があるとするなら、結城と過ごす時間がまさにそれだった。
でもそれはあくまで春馬の一方的な思いにすぎなかった、結城がどう思っているかなんて、知るのは怖かった。
だってここまで二人の時間を感じ入っている春馬だ。もし冷めた現実を知った時、その衝撃は千尋の谷に突き落とされたのと同じだった。
「よかったな、それは。まぁ、とにかく食べようぜ。飯が冷めちまう」
春馬は心を押し隠すように、ぶっきらぼうに言った。
二人で食事を始める。
それはある意味ラグがあったとしても、以前と変わらない光景だった。
ただお互い疲れていたのだろう。言葉は少なかった。
けれども春馬は嬉しくて、そんなことは瑣末なことだった。
口元をお茶碗で隠すように食べているが、ほころぶのが止められない。
結城と一緒のごはんだ。
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