好きの証明

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好きの証明

頬をなでると、伸びてきたのだろう、少し無精ひげになっていた。 真美の名残といえばいいのだろうか。彼女の笑い声が聞こえてきた。 僕はあの時、とてつもない現実を突きつけられたような気がした。 そう、彼女がいなくても、現実を壊れず、そして僕が生きていかなきゃいけない現実を。  なんて世界は残酷だ。  僕の目の前には年下の友人である春馬が眠っている。 さすがに今日は疲れたのだろう、すやすやとソファに寄り掛かって眠っている。 彼にもずいぶん迷惑をかけた。それでも一緒にいてくれるのだから、自分はずいぶん幸せ者だ。 「君は僕が好きなのか」  口についた言葉。その言葉に不思議と違和感が起きなかった。 そう思えば、春馬が一生懸命に行動を起こす理由にも納得がいく。 彼はそれほどまでに結城のことが好きなのだ。 「僕のどこがいいのか」  苦笑いを浮かべつつ、顔をしげしげと見てしまう。 春馬はこんなに顔立ちが良かっただろうか、なんだか頼もしく見えてしまう。年下なのに。 ちくちくとしたひげの感触。なぜか面白がって、触れてしまう。  結城は申し訳なさそうに唇を引き結んだ。そして――。 「だけど、僕の心には真美がいるよ」  そんな人間には付き合わすのは、あまりに不憫だ。 結城は顔から手を離す。その瞬間、ぐっと、手首をつかまれた。 「はる、ま君?」  春馬は起き抜けとは思えないほどしっかりとした目で、結城を見ていた。 「それでも好きです。ううん、真美さんがいたからこそ、あんたに俺は惹かれたんだ」 「……」 「俺は、あんたがいい。結城さんが生きてくれるだけで嬉しいんだ」  急に春馬の瞳が揺らいだ気がした。 「そんな、俺は、駄目かな……?」  そんなことはない。結城だって春馬が大事な存在だ。 少なくともただの友人とは言えない。もし隣にいなくなってしまったら、結城はどれだけ傷つくだろう。 だけど、春馬は自分の気持ちを伝えてしまったせいで、時間差で不安になっているようだった。  どうしたらいいんだ、どうしたら…… なんと答えたら正解か分からない。いや、言葉でも言い尽くせない。 結城はまるで何も考えられず、行動を起こしていた。
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