好きの証明

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 春馬の唇に、己の唇を重ねていた。ほんの一瞬だった。肉の感触を食むように味わう隙もなかった。 それをやって、結城は顔を赤らめた。自分の思わぬ行動に、結城は恥ずかしくて顔をあげられない。  声を震わせて、吐き出すように言った。 「これくらい、好きだよ……」  どきまぎした。自分の行動が信じがたいレベルだ。だがこれくらいしても後悔がない。 むしろ、当然のような気がした。  春馬から痛いほど視線を感じる。逃げ出したいが、手首から手が離されない。むしろ込められた力は強くなるばかりだ。  結城はなけなしの勇気を振り絞って顔をあげた。すると春馬は嬉しさを押し殺すような顔をしていた。顔が見たことがないほどに真っ赤だ。 「春馬君……」 「結城さん、もう一回お願います」 「え、何を」 「もう一回、好きって証明してください」  つまりはもう一度、結城にキスをしてと。 結城は動揺しつつも、それに嫌悪を覚えられない自分を確かに感じていた。  ……ふたりの新たな時間が、始まった。 まるでそれを覗き込む天使がいたのか、窓がわずかにきしんだ。 しかしそんな音に、二人はとても気づく余裕はなかった。
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