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男子二人、買い物に出かける
「明日はそろそろ出かけないと……」
ふっと息を漏らすように結城が言葉を吐いた。
「え、出かける?!」
春馬がぎょっとして、テレビから目を離す。
今日も今日とて、春馬は結城の家で食事をとり、そしてリビングでテレビを見ていた。
そこでゲーム雑誌を読みながら結城が、春馬にとっての爆弾を落としたのだ。
結城は面倒くさがりなところが大きく、食事を作るための材料は宅配を活用してるし、そのほかのモノも通販をフル活用している。仕事以外に出かけることがあまりないのだ。以前なら真美が引き連れていて、外に出ることもあったようだが。今はその人は病院で眠り続けている。
「そんなに驚かないでよ。服がね、ちょっとくたびれてきちゃって、買い足さないと」
「なるほど、通販では買わないんだな」
「靴と服だけはねぇ……自分で手に取らないと気が済まないんだよ」
「へぇー」
それにと結城は言葉を続けた。
「真美に、会いに行かないと」
たまたまと帰ってこない言いながら、婚約者のために食事を作りつつも、病院にいる植物状態の婚約者に会いに行く。一見矛盾しているように感じるが、結城の中では成立している。婚約者は病院にいる。そんな現実をまだ認識出来るあたり、結城は苦しくないのだろうか。
春馬は結城の目を見なかった。こんな時の結城の目はさえざえとしていて、感情が読み取れない。ただ眼前をまっすぐ見ている。わずかに浮かべる淡泊な表情が、すべての感情を押しつぶしているように思えた。
しばし考えて春馬は言った。ちょっと勇気を出すために、息をつきながら。
「俺、明日暇なんだ」
「え」
「んでもって、服が見たい」
「はぁ」
「俺もついて行く。服を見に行くんだろ」
春馬は結城を見た。
唖然というか、口をあんぐりと開けて結城がこちらを見ている。
「駄目かよ、結城さん」
「駄目じゃないけど、大学の宿題とかないの」
「あるけど、大丈夫だ」
堂々と言い切る。進行が遅れている課題はあったけれど、それはそれ。大学の夏休みは長い、何とかなる。何とかする。春馬はどんとテーブルを重く叩く。
「どうするの? 結城さん」
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