全て終わりゆく

1/5
前へ
/28ページ
次へ

全て終わりゆく

夕方に近づく。 その頃には花火大会と縁日に引き寄せられて、外はヘビのような行列が出来ていた。 「これじゃ、すぐには帰られなさそうだ」  はんば呆然とした声で結城が言った。 夏の猛暑にやられて昼間は聞こえなかった蝉の声が耳に響くように聞こえる。 「そうだな……どうしようか」  結城は手を顎に当てて考える。 「家にはすぐ、帰られないだろう。駅もすごいことになってるだろうから」 「うん」 「まだ一緒にいてもらってもいいかな」  結城の言葉に春馬はぐっと拳を握る。  買い物して、飯でも食ったら終わりだと思っていたから、春馬には万々歳だ。 だけど春馬の上がっていく気分とは反対に、結城の表情は心なしか暗くなっていく、 春馬は一瞬自分を見て、それから結城のほっぺを思いっきりつねった。 「な、なんなんだい。春馬君」  春馬は意思を取り戻したかのような顔でツッコむ結城に、にこりと笑いかけた。 「シケた面してたから」 「え」 「きっと、予定外に俺の時間を引っ張っているって思ったんだろ」  ああ……と言わんばかりに結城は苦い表情を浮かべる。 「気にしなくていいんだよ。俺は楽しいんだから」 「……そうだね」  結城の表情は、春馬の言葉で、冴え返ることがなかった。 けして間違っていないと思うのだが、まるで半分正解で。  半分は間違いな、ような気がした。    花火の音がどぉん、どぉん、と聞こえる。 花火大会の閲覧席がある、近くの大きな公園にはたくさん人が集まっているらしい。 しかしそこから離れている縁日にも大量の人が集まっている。 歩くにも一歩一歩確認しないと前を歩いている浴衣の女性の足首に足を当てそうになる。 脇を無理くりに進む、甚平のおじさんが通り過ぎる。屋台の一軒一軒で行列が出来ているらしく、しかしどこからスタートしているのか分からない。威勢の良い呼び声も、人の波と熱気と賑やかな声で、かき消されんばかりだ。 「きっついすねぇ……どうしますー? 暇そうな屋台なんてな……」  人に押されながら、前に進んで、それでも後ろに着いてきているはずの結城に言った。 けれども結城から何の返答もない。というか、いると思ったらいない。 「え、はぐれた!?」
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加