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僕は息をする事も忘れそうな勢いで、ただ女性の言葉に必死に耳を傾けていた。何か大事な事が掴めそうな気がしたから。
「だから、嫌なら嫌って言って下さいよ。そしたら誰かが助けてくれますから。無理して真面目でいようとしなくても『あなた』を見てくれる人はいますよ。だから、自分を隠さなくても良いんですよ」
その言葉を聞いた時僕の心の中で何かが動いた気がした。そしてそれが何だったのかすぐに分かった。
僕は褒めて欲しかったわけでもなかった。真面目だと言って欲しかったわけでもなかった。
ただただ『自分』を見て欲しかっただけなんだと。
真面目の先にある本当の自分に目を向けて欲しかっただけなんだと気付いた。
「……ありがとう。君のおかげで僕は大切な事を思い出したよ。僕はただ僕自身を見てくれるそんな人に出会いたかったんだ。長らく忘れていたけど、やっと思い出せた。これで僕は向こう側へ行けるよ。本当にありがとう」
そう言って手を振ると、涙で崩れながらも笑顔で手を振り返してくれた。
「まったく最後まで真面目なんですから。待ってて下さいね私も行きますから。そしたらまたこんな風にお話しましょうね……」
呆れたようにそう言われた。
「……お疲れ様でした」
幾度となく聞いてきたけど、そのどれよりも僕の心に響いた労いの言葉に優しく包まれながら、僕は旅立った
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