正義の味方は此処にはいない。

10/10
前へ
/10ページ
次へ
 ***  彼女は、自らを“報復の魔女・ベティ”と名乗った。  悪役のテンプレート。世界征服を目論んでいるのだと、そう言って嗤った。それこそが復讐であり、自らの存在証明であるのだと。  そう、彼女は復讐だと確かに言ったはずなのに、自分達はそれを完全に聞き逃していた。彼女の故郷の世界はディアレストに滅ぼされ、住人達は全て皆殺しの憂き目にあったのだという。  ベティは、ディアレストを憎んでいた。同時に同じだけ、ディアレストという世界の住人たちの残酷さと――約束さえも平然と破る卑怯さをよく知っていたのである。ディアレストという帝国がある限り、この世に平穏は訪れない。彼女はディアレストを滅ぼし――全ての世界を自らの手で統括することで、この世に平和を齎そうとしていたのである。  正義の勇者が倒した、悪のラスボスが願っていたのは。  世界征服による――もう誰も傷つかない、平和な世界だったのだ。  僕は今、今更知ってしまった真実に呆然として――世界が滅ぼされる最後の日を待っている。  正義の味方がラスボスを倒せばハッピーエンドになるなんて、そんな話はデタラメだった。いたのは正義だと思い込んで真実を何も知ろうとしない偽善者と、たった一人手を汚してでも世界を救おうとした心優しい魔女だけだ。偽善者がもし、彼女に僅かでも愛を向けていたのなら、この最悪の結末は避けられたのかもしれないというのに。  破滅に進む世界で、僕は取り返しのつかない罪を今、たった一人で懺悔している。  本当の勇者も、悪のラスボスもいなかった世界で今――たった、独り。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加