正義の味方は此処にはいない。

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 そして――ああ、本当にどうしてだかわからないけれど。  三人の勇者のリーダーとして、選ばれてしまったのが何故だか僕だったのである。確かに陸上部だから足の速さには自信があるけれど、僕らの世界に魔法なんてものはないし、僕自身喧嘩なんていっぺんもしたことがないのだ。僕は逃げ出したかった。この世界の命運を背負うなんて、そんな恐ろしいことできるはずもないと思ったのである。  でも、同時に気がついたのだ。自分達が負ければ世界が壊されてしまうと知っていて、この世界の運命を背負うのことできる勇気ある者が、一体どれだけいるだろうか、と。剣闘会にはルールがあって、そのルールの隙をつけば僕みたいな素人でも勝ち目がないわけではなかった。何より、僕以外の二人の仲間は本当に頼もしく、高い技術を持っていた。完全に、勝てない戦いではない。僕に、やる気と勇気があれば、優勝できる可能性もゼロではないと知っていたのだ。  何より。僕には守りたい存在があったのである。いつも穏やかで優しい父さんと、元気で明るい母さん。高飛車だけど頼れる姉と、まだ小学校にも上がっていない小さな弟。  そして、同じクラスの幼馴染みの茜ちゃん。ひそかに淡い恋心を、まだ彼女に伝えることができていなかった。それさえもしないまま、世界が終わってしまうなんて――そんなことは耐えられない。誰かがやらなければ、僕がやるしかないと――そう思ったのである。  だから。 『僕、勇者になります!戦って、剣闘会で優勝して、僕達の世界を救って見せます!!』  僕は、そう大人達に告げた。  そして、剣と魔法の過酷な戦いに、足を踏み入れてしまったのである。
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