正義の味方は此処にはいない。

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 彼女の目的は最初から――邪魔な帝国、ディアレストを滅ぼし。異世界全てを手中に収めることにあったのである。  究極魔法――クライシス・コード。  それを完成させるため、彼女はこの剣闘会を利用していた。最強の剣士達を戦わせ、最後に残った一人をベティ自らが打ち倒すことでその魔法は完成するのだという。 『我が名は“報復の魔女・ベティ”!!さあ、私と戦うがいい…地球の、日本の勇者よ!お前を倒せば、私の世界征服は完成するのだ!!』  まだ中学生くらいの、小柄な少女は。狂気に満ちた笑みで、僕に向かってきたのである。女の子が相手だからと言って、手を抜くことはできない。僕の手には、僕らの世界のみならず、ディアレストや他の異世界のみんなの命運全てがかかっているのだから。  何故、彼女が世界を支配しようとしているのか。  何故、彼女はそんなにも憎悪を剥き出しにして襲ってくるのか。  僕は、何一つわからなかった。わからないけれど、それを気にしてなどいられなかったのだ。例え見た目が女の子でも、その実態は世界征服を目論むラスボスなのである。正義のヒーローがそれを倒さない限り、物語にはハッピーエンドなんてものは絶対に訪れないのである。 『負けない…!お前の狂気なんかに、悪意なんかに飲み込まれてたまるか!僕は、みんなの未来を救うために此処にいるんだ!!』 『ほざけ小僧!お前には誰も、何も守れはしない!私の魔法で砕け散るがいい、忌々しい勇者どもめ!!』  僕は、仲間達と――友になったディアレストの戦士達の力も借りて。ギリギリのところで、最終決戦を制することができたのである。  とてつもない魔力で恐ろしい魔法を繰り出してくるベティは強く、華奢な見た目に反して格闘技術にも精通していた。たった一人の魔女を倒すために、僕らは総力を尽くす羽目になったのである。  しかし、勝つことはできた。最後の僕達の魂をこめた一撃を彼女は止めきることができず――思いきり吹き飛ばされることになったのである。  悪の魔女は、打ち倒された。  僕たちは手を取り合って喜んだ。これで、僕らの世界も、全ての世界もきっと救われるはず。彼女の魔法を利用すれば、ディアレストの歪みも正すことができるという。これでもう、誰も傷つかなくて済むのである。僕は、そう信じていた。
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