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「生き物を飼うなんてダメよ。だって死んだ時に悲しいでしょ?」
ぼくが犬を飼いたいと言うと、決まってお母さんはそう言った。それでもぼくはどうしても犬が飼いたかった。お母さんを説得するためにお手伝いをしてみたり、泣いて駄々をこねてみたりしたけどお母さんは犬を飼うことを許してくれなかった。だからぼくは犬を飼っているふりをすることにした。大きさはこれくらい、毛は長くて、しっぽの毛がふさふさで。ぼくは見えない犬を撫でたり散歩に連れて行ってやったりした。自分のご飯をわけてあげたし、夜は同じベッドで一緒に眠った。この見えない犬も可愛いけれど、いつか本物の犬が飼えたらいいのにな。
ある朝ぼくは犬の鳴き声で目が覚めた。眠い目をこすりながら鳴き声のした方を見ると、そこには青い毛の犬が座っていた。犬はぼくを見て、わん、と鳴いた。
急いでリビングに駆け下りて、お母さんに青い毛の犬のことを話したけど、お母さんはさっぱり相手にしてくれなかった。ぼくはその犬に触ることができるのに、お母さんもお父さんも犬のことは少しも見えていないみたいだった。もしかしたらぼくの気持ちが神様に届いて、神様がぼくにだけ見える犬をくれたのかもしれない。
と名前をつけたその犬はとても不思議な犬だった。ぼくは のふわふわとした毛並みを触ることができたけど、のしのしと歩く は空気みたいになんでもすり抜けてしまった。それだから、リビングをうろうろしてはお母さんに通り抜けられていたけど、 は何も気にしていない様子だった。
空気みたいな犬だからご飯も食べなければうんちもおしっこもしなかった。 はボール遊びが好きだった。と言っても普通のボールじゃなくて見えないボールだ。部屋の中でぼくが家にあった野球ボールを投げてみたら は困ったように首をかしげた。そこでぼくは試しに想像上のボールを投げてみることにした。ぼくは黄色くて手のひらサイズのゴムボールを想像する。見えないボールをぼくはそっと の方に転がした。すると、 はそれを口にくわえて嬉しそうにしっぽを振った。
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