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「あの子、いもしない犬を相手にして喋っているのよ?本当に大丈夫かしら?」
「ああやってごっこ遊びをしてるんだろう。あのくらいの年齢の子供にはよくあることだよ。大丈夫さ」
お父さんとお母さんが話している横で は大きなあくびをしていた。 は名前を呼べばちゃんとそばに寄って来るし、お手やおすわりも覚えた。他の動物からは見えるのか、よく散歩中の犬に吠えたり吠えられたりしていた。当然飼い主に は見えないので飼い主は不思議そうな顔をしてぼくのことを見ていた。 は公園で鳩を驚かせたり蝶々を追いかけたりするのも好きだった。楽しそうに走り回る を見ていると僕も楽しくなった。ぼくが を撫でてやると は嬉しそうに目を細めた。
その日ぼくは家に一人だった。お父さんもお母さんも働いているので一人で留守番をするのはよくあることだ。それに今のぼくには がいるから全然さみしくなんかなかった。
すやすやと眠っていた が何かに気付いたように突然ぱちりと目を開いた。そして目を覚ましたかと思うと、不安げにあたりをうろうろし始めた。「どうしたの?」とぼくが聞くと は、わんわん、と吠えた。 が家の中で吠えることは滅多になかったので、ぼくは急に不安になってしまった。その時、ミシッという音がして照明のひもがゆらゆらと揺れた。それからすぐに、その揺れは大きなものへと変わった。食器棚の中でお皿がガチャガチャいうのを見て、ぼくはとても怖くなってしまった。どうしよう、そう思った瞬間、大きな箪笥がぼくにむかって倒れてきたのだ。ぼくはとっさに目をつむった。
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