空気犬

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 箪笥はぼくの上に倒れてくるはずだった。だけどぼくは  のきゃん、という鳴き声で目を開けた。ぼくの目の前にはぼくの代わりに箪笥の下敷きになった  がいた。ぼくは  の上に覆いかぶさった箪笥をどかそうとしたけど、箪笥は重くて少しも動かなかった。ぼくは、ごめんね、ごめんねと  に触れた。  は力なく、クーンと鳴いた。  地震が治まったあと、お母さんから電話があった。ぼくは、「ぼくは平気だけど  が箪笥の下敷きになって動けないんだ。お願い早く  を助けて」と泣きながらお母さんに言った。お母さんは酷くぼくを心配して、今から急いで帰るから、とすぐに電話を切ってしまった。    「きっと地震のショックで妄想と現実の区別がつかなくなってしまったのね」  「まだあんなに小さいのに可哀想に」  看護師さんたちがひそひそと話しているのをぼくは病室で聞いていた。お医者さんの先生は「もう大丈夫だよ。その悲しい気持ちも薬を飲んでじきに楽になるからね」と言って優しく微笑んだ。  ぼくは帰ってきたお母さんに、「ここに  がいるんだ。早く箪笥をどかしてあげて」と頼んだけれど、お母さんは困った顔をしながら「そんな犬はいないのよ」と言うばかりだった。病院から帰ってくると、  はいなくなっていた。ぼくは悲しくてベッドの中で一晩中泣いた。  みんなは  のことをぼくの妄想だと言うけど、  は本当にいたんだ。だって、  がいなくなった今でも、ぼくにはぼろぼろになった黄色いボールが見えるんだから。それなのに、なんでだろう。今は  の名前が思い出せない。絶対に  はいたのに。  それでも、ぼくは待っている。黄色いボールが消えない限り、青い毛をした空気犬が、わん、と鳴いてぼくの元に帰ってくるのを。    
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