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松島は、これだ! と思った。
ラム酒はサトウキビが取れる場所なら、世界中どこでも造れるし、品質の良いものを造れば、島の産業が産まれ、雇用も増える。犯罪に頼らなくて、子供達にも教育を与えることができる。
しかし、問題もあった。
資金面、フィリピン政府との交渉、そして何よりも家族。
当時48歳だった松島には、妻と13歳になる娘がいた。当然連れてはいけない。
果たして、どうするべきか。
そんな時に、松島は男の噂を聞いた。
あたると評判のバーがあると。
半信半疑だったが、信頼できる筋の話だったのと、藁にもすがる思いだったのもあり、松島はバーに足を向けた。
「あたるかどうかは、私は知りません。選ぶのはあなたです」
「それでも、私を信じることができますか?」
男の声に促されたわけではないが、信じると自然に言った。
そして松島は、男の占いの結果を信じて、行動を起こし、ザボワ島に渡った。
渡る前にクリアすべき問題は、全て、あっけなく解決していった。あれこれ考えていたのがバカらしくなるくらいに。
資金面、政府交渉、家族の問題すべてが。
何よりも驚いたのが、島での事業がトントン拍子に上手くいったことだった。
松島は、男の元を訪ねたことに運命的なものを感じた。
島に渡ってから三年。
いよいよ商品化できる目処がたち、日本にも販売会社を作る運びとなり、今日再び、男の元を訪れたのだった。
「あの時に、君の占いを信じて良かったよ」
松島の声に、男は感慨もなく答える。
「選んだのはあなたですから。私は何も」
「君らしいというのかな」
松島は少し笑って答えた。
そうだ、という風に、松島は持ってきたカバンをカウンターの上に置き、二本のボトルを取り出した。
「君にぜひ飲んでもらいたくてね。ザボワ島のラムだ。今私はフィリピンのザボワ島でラムを造ってるんだ」
「ええ。ニュースで見ましたよ」
「そうか。知っていてくれたか。いや、嬉しいな」
ニュースだけではなく、松島は、男の生業とする業界では有名人だった。近々かなり物の良いラムを出すらしいと。
「君にはどうしても、日本のバーテンダーの中で一番最初に飲んでもらいたくてね」
「どうだろう? 飲んで感想を貰えないだろうか」
男は松島を見て答える。
「私はそんな人間じゃありませんよ。リリース前の貴重なものを飲むような」
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