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「君はあの時言ったはずだ。私のことを信じることができますか? と。だから私は全面的に信じた。占いもバーテンダーとしても。信じるってそういうことだろ?」
男は少し困ったという風に、
「占いに関しては言いましたが、バーテンダーとしてとは。評価していただけるのは嬉しいのですが」
と答える。
「まあ、つべこべ言わずに、さあ、グラスを出してくれ。私の分もね」
男は渋々答える。
「分かりました」
男はグラスを四つカウンターに並べた。
松島は二本のボトルの封を切り、男に渡す。
男はそれを受け取り、一本ずつ丁寧に見る。
一本は無色透明。もう一本は若干黄色味がかっている。ラベルは白地で厚く、わざと少しシワを入れてあり、黒色でZAVOWHAと書かれていた。書体は筆で書いたようだった。
「今時凝ったラベルですね。どんどん紙質含め簡略化されていってるなか、久しぶりに見ました。ちょっと日本酒のラベルを意識したような。シンプルだけど、存在感のある、良い顔だと思います」
「やっぱり分かってくれたか。そうなんだ。日本酒のラベルを意識したんだ。世界に売り出すにはこれがいいと思ってね」
松島は嬉しそうに答えた。
「さあ、早く開けて」
松島に促され、男はため息をつきながら、無色透明の方のコルクを開ける。
コルクを開けた瞬間、店内に、若くて力強く、それでいて繊細なほのかに甘い香りが広まる。
男のいつも無関心な目に、光が灯ったように見える。
松島はそれを見逃さずに、男を急かす。
急かされたのも気にせず、男は松島のグラスに、次いで自分のグラスにゆっくりと注ぐ。
空気に触れて、はっきりと輪郭が浮かび上がってくる。
男はグラスを松島に掲げる。
「先ずは乾杯を」
松島もそれに答え掲げる。
「再会に」
二人はグラスを合わせることなく、互いの目線に合わす。
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