再び

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充分余韻を楽しんだのか、松島が沈黙を破る。静かな声で。 「では、始めてくれ」 男も静かに答える。 「わかりました」 男は店内の照明を落とし、ラジオを消して、キャンドルに火を灯す。 それを松島と男の間に置く。 開けた窓から入る真夜中の柔らかな風に吹かれ、火が揺れる。 その火の揺れに照らされ、夜と同化したような店内に、男の姿が妖しく浮かぶ。 男は松島を見て言う。 「私はあなたの選択肢を占い、結果を導くだけです。結果に対しての助言もできません。選ぶのはあなたです。それと以前にも話しましたが、悩みを話さないでください。余計な影響を受けないためです。最後に、あなたは私を信じることができますか?」 松島は、何故か男の信じることができますかとの問に、幾分力がこもってるように感じた。 それでも答える。 「私は君を信じるよ」 男は伏せ目がちに、静かに言う。 「わかりました。では始めます」 男は黒のネクタイを緩め、シャツのボタンを二つ開けて、首にかけていた水晶の原石を取り出す。 そして、それを松島の目線に垂らす。 「これから紙にあなたの選択を書いてください。そして、目を閉じて、この水晶を私がいいと言うまで両手で握りながら、それを思い浮かべてください」 松島は揺れる水晶を見ながら、男の声に聞き入っていた。その言葉が終わると、自然と頷いていた。 男に渡された紙に、松島は書く。 Yesと、少し離してNoと。 「握って、目を閉じてください」 松島は、キャンドルの光に照らされゆっくりと揺れる水晶を、まるで蝶を捕まえるように、そっと包みこんだ。 目を閉じ、選択を浮かべる。 やがて、浮かべたものが黒いもので覆われていき、代わりに温かいもので満たされていく。 心地良い感覚に思考が奪われていた。 男の声が微かに聞こえた。 「さあ、目を開けてください」 松島は、その声に呼び戻されるように、ゆっくりと目を開ける。 最初に見えたのは、揺れるキャンドルの火だった。 そして、そこに浮かぶ男を見る。 男は水晶を紙の上に垂らす。 小さく揺れている水晶から松島は目を離すことができなかった。 男はゆっくりと水晶をYesと書かれた上に持っていく。 水晶は変わらず小さく揺れている。 やがて、水晶はNoと書かれた上に移動する。 最初小さく揺れていた水晶が、揺れ幅が大きくなり、大きく円を描き始めた。 松島は息を飲んだ。
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