真夜中の本音

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 ホットの缶コーヒーを2本だけ買って、ぼんやりしている達哉とともに、風人はコンビニを出た。駐車場に停めていた自転車の籠にコーヒーを1本いれて、もう1本は達哉に渡した。それから自転車に乗り、後ろに達哉が乗るのを振り向いて確認してから漕ぎ出す。 「振られて気の毒だったね」 「ひどい振られ方だった」 「そんなに?」 「終電がなくなるまで、一緒に飲んでいたんだけど」  それならコーヒーじゃなくて水の方が良かったなとどうでもいいことを風人は思った。達哉は気にならないらしく、缶を開ける音が響く。 「終電がなくなったって言ったら、ネカフェがあるよってニコニコ言われて。びっくりした」 「それで?」 「好きなんです、付き合ってください。初めて会ったとき、オレに今まで恋人がいなかったのはあなたに会うためだとわかりましたって言った」 「え!? 気持ち悪くない!!? 達哉そんなこと言うタイプだっけ?!」 「うるさいな! こういう、夜遅い時間は恥ずかしいことも言えるもんだろ……」 「あー……」  それは風人にもわかった。ポエムは夜に書く方がいいという話を聞いたこともある。真夜中は人を情熱的にするらしい。 「でも振られたんでしょ、気持ち悪いって」 「気持ち悪いとは言われてねえよ! もっと悪いんだよ。オレが貝に似てるから無理だって……」 「かい?」  風人の頭の中に、アサリや巻貝が浮かんで消える。貝? 「そう、貝。わけわからないだろ? 彼女、昔海に行って、ハマグリだかあさりだかわかんねえけど、味噌汁に入ってるような貝を連れて帰ったらしい。そんで、塩水に貝をいれて飼ってたんだって。餌を入れると舌がびろーんってでてくるのを眺めてたそうだ」 「ふ、ふーん……」 「その貝に見えるんだって、オレが」   「……えっ」 「普通に振られたかった。いや振られたくねえけど。でも貝ってなんだよ」
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