真夜中の本音

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 犬や猫に似てるという話はたまに聞くけど、貝に似てる人間の話は初めて聞いた。風人はなんと言えばいいのか迷い、黙る。辺りは月明かりで真夜中とは思えないほど明るい。背後で達哉がコーヒーを飲む気配がする。 「オレ、一生童貞なんだろうか」  悲痛な言葉だった。もう何度も聞いた言葉ではあるが、達哉は大真面目だ。経験のありなしなんてそんなに大した問題ではないと風人は思っているし、事実そうなのに。なぜ性経験がないことをそんなに一大事だと感じてしまうんだろう。 「そのうち、いい人と出会えると思うよ」  風人はお決まりのセリフを吐いた。 「いやー、でも今回は本当に付き合えるんじゃないかと思ってたからなぁ、今回のでダメならもう一生ダメじゃないかな」 「そんなわけない、ないよ、大丈夫」 「そうかなあ」  そういう店に行って済ますのではダメだというのが達哉の持論だった。愛が前提になければダメらしい。こういう話をするとき、風人は自分の無力さが嫌になる。親友の力になれそうもないのがしんどい。 達哉はため息をついて、よし、とつぶやいた。 「仕方ない。現世は諦めるか」 「諦めるの?」 「諦めきれないけど、とりあえず諦めたってことにしとく。じゃないと辛すぎるんだよ」 「ふーん……」
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