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「え……あ……まさか、佑葵くんの……」
佑葵の声だと思って振り返ったが、どう見ても年齢が合わない男性がいる、しかも数十年後の佑葵はこんな風に年を取るだろうと思わせる美丈夫だ。
そしてはたと思い当たる、よく似た声に、よく似た容姿──不躾にも蓮を指さしていた、その指先が震えてしまう。
未婚だと思っていた結依のマンションに、佑葵の父と思われる男性が訪ねて来る、その答えは簡単だ。
「結依がお世話になっているようで」
八代の動揺を察した蓮はことさら笑顔で、八代の答えを肯定するように言う。
「結依になにか御用ですか?」
「あっ、いえ、済みません……桃李君の部活とサッカークラブの送迎を頼まれていたんですが、中学校に迎えに行ったら、桃李君はもう帰ってしまったと聞いて」
「──ああ」
詳しい事も言えず、蓮は曖昧に返答する。
「学校から電話をしても、田浦さんの携帯がつながらないらしいんです。んで、俺は桃李君の荷物を預かって来たんですけど、今、部屋にもいないみたいで」
居留守じゃないのか、そうは思ったが言えず、
「ありがとうございます、俺が受け取っておきます」
「はい」
疑う必要がない相手に、八代は素直に桃李のボストンバックを渡していた。
蓮がその持ち手を掴んだ時、
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