3

3/4
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
パネルの画鋲を外していると、少し届かないところがあった。椅子の上に乗っているのだが、それでも30センチほど足りない。ジャンプする?いや、危ない。 そこで私は、机の上に椅子を乗せ、その上に乗ることにした。バランスが少し心配だが、ジャンプよりはマシだ、と思い椅子に足をかけた。 しかし、体重をかけた瞬間、身体がグラつく。あっと思ったが、体勢は戻せそうもなかった。両手が塞がっていたからだ。スローモーションで自分の身体が落ちていくように感じ、私の頭はどうやって受け身を取るかについて高速で考えていた。 瞬間、後ろから駆け寄ってくる足音が聞こえ、誰かに抱きとめられた。 「危ないだろ!馬鹿!」 高橋君だ。 間一髪、落ちる前に上手く受け止めてくれたらしい。どこも痛くない。 めったに険しい表情をしない彼には珍しく、眉間に皺を寄せ、息を荒げ、大声を出した。彼の心臓の音が聞こえる。バクバクしてる。とても早い。右手は私の肩を抱き、左手は私の両膝下に通されていた。顔が目の前…って、え、待って、これはお姫様抱っこというものでは… 動揺して手足をばたつかせながら顔を真っ赤にした私を見て、高橋君も漸く状況に気がついたらしい。私と同じように慌て出したので、もつれあって、二人して床に倒れ込んでしまった。 高橋君は、そんな状況でも生来の男らしさは発揮してしまうらしい。倒れこむ直前に、怪我をさせまいと私のことをぎゅっと抱き寄せたので、抱きしめられながら押し倒される状態になった。 腕、痛くないのかな…なんて考えて現実逃避をするが、彼の逞しい腕の感触、厚い胸板、柔軟剤と汗の匂いを感じてしまい、頭がぼーっとする。体温の高い彼に抱きしめられていると、体が溶けてしまいそう。高橋君は、やっぱり、どうしようもなく、男の子なのだとはじめて自覚した。     
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!