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藍色の空を破るように、東の空がオレンジ色に染まる。緩やかな風が、涙に濡れたギムリの頬を乾かしていく。赤ん坊は白い布に包まれて、ギムリの腕の中で気持ちよさそうに眠っている。
舷側に立って波間を見下ろした。斜めから差し込む明かりに照らされ、海面が煌いている。
仲間が、縁に乗せた細長い板の端を高く持ち上げた。先端に乗せたエフローラの亡骸が、海に向かって真っすぐ落ちて行く。
背後から聞こえてくる仲間のすすり泣く声が、次第に大きくなる。ギムリは顔をしかめた。
どうして、エフローラが。
何度問いかけたか分からない。分かるのは、目の前に託された命があるという事実だけだ。目線を腕の中に落とせば、そこにあるのは繊細なガラス細工のようにもろくて、壊れやすい小さな宝。
かつてないほど胸に迫る熱い思いが、腹の底から湧き上がってくる。それは声になって噴き出していた。
「善人になるのは止めだ。それじゃ、息子を守れねえ。オレはこいつのためなら、何でもする。息子を脅かす奴は、このオレが許さねえ! 悪魔にでも何でも、なってやる!」
海に向かって叫ぶと、返事をするかのように、赤ん坊がうわっと泣き声を上げた。
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