真夜中

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 抵抗の素振りを見せる奴には容赦しない。それがギムリの方針だ。  得意技は持ち前の太い腕で相手を持ち上げ、舷側から放り投げることだ。しかし、縁から遠かったり、相手が銃を持っていたりする場合は違う。鉄の棘のついたグローブを装着した右手で、顔面を思い切り殴る。そして相手の武器を奪い、そいつの横っ腹にその武器をお見舞いするのだ。  ナイフの類なら命が助かることもあるだろうが、銃の場合はその限りではない。ざまあみろ。 「こ、こんなことをして、許されると思っているのか……!」  身分だけが頼りの、細い体つきの船長が、これまた弱々しい声で威嚇(いかく)する。腰を抜かして座り込んでいる上に頭に銃を突き付けられているのだから、命乞いかもしれない。 「ぐははは、この世は強い奴が生き残る。そして、このギムリ様は強い」  仲間が積荷を手際よく運び出すのを見届けると、後は素早く撤収するだけだ。その前に、この船長をどう料理しようか。かがり火に照らされた顔は憎々しげに睨みを向けている。 「わ、私を撃つと、後悔するぞ」 「ふん、後悔などするか。大体、お前みたいな奴を残しておくと、ろくなことがない。オレたちを捕まえようと、海軍が討伐に来るんだろう? そんな金があるなら、こっちに寄越せってんだ」  引き金を引くと、糸の切れた操り人形のように倒れ込み、相手は動かなくなる。使った銃はその場に捨てて行く。ついでに助言も吐き捨てておく。「抵抗する時は刃物にしろ」と。  この日の仕事も無事に終わった。それは珍しいことだ。なんせこの稼業には怪我が付き物である。  たまに、と言うより、大抵は刺されたり銃弾を受けたりする。仲間の中に医者の真似事が出来る奴はいても、傷が深ければ助からない。  幸いなことに、ギムリにはまだ両手足が揃っていた。
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