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昼下がり
上陸さえしてしまえば、領地を見張っているのは人当たりのいい南部の人間だ。
知らない人間に出くわしても、挨拶をして知人のカヌマに会いに来たと言えば、こそこそする必要はない。荷車を引きながら闊歩する。畑ばかりの風景に飽きたら、鼻歌でも歌えばいい。
歩き続けていれば、明け方には目的の村に辿り着く。見慣れた家はまるで第二の我が家のよう。
「おお、ギムリかい、いい時に来たね」
扉を開けると、カヌマの元気な声が飛んでくる。彼女は幼い三人の子の母親でもあり、かつての海賊仲間でもある。ギムリたち一行が到着した時は、朝食時だった。テーブルの上に大きな鍋が置かれ、肉や野菜の浮かんだ汁から湯気が立っている。
「いい匂いだな、オレにも一杯食わしてくれ」
「あいよ。少ないけど、みんなの分くらいはあるよ」
「あのう、頭、あっしら、ちょっと」
若い奴らが戸口で薄ら笑みを浮かべて手をこすり合わせている。そうだった、うっかりしていた。
「お前らは別行動だったな。手ぶらは格好がつかねえぞ。宝石の一つくらい、持って行け」
礼を言いつつ戦利品から手土産を抜き取ると、そいつらはいそいそと方々に散っていく。馴染みの女の家へ行くのだ。
半分ほどがいなくなり、残った六人ほどでテーブルを囲む。カヌマの子供たちと肩を並べて、熱い汁をすする。
南部は女子供ばかりで、働き盛りの男は北部に出稼ぎや兵役に取られている。家庭的な温かみを感じながら仕事の疲れを癒すひと時は、男どもの居る他の国では味わえない。
食事の後には酒を飲む。朝から飲む酒は格別にうまい。ただのんびりしているだけに見えるが、それだけじゃない。盗品を売り買いする仲介人が来るのを待っているのだ。
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