夕暮れ

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夕暮れ

 夕暮れ時の洋上。そこは多くの商船が通る航路だった。オレンジ色に染まったインバース号は、帆を半分ほど畳んで獲物の通りかかるのを待っていた。  陸に上ったときにだけ剃るギムリのひげは伸びて、海水でしか洗わない衣服はごわごわになっている。領主からもらった金は酒と食料に消えて久しい。荷運びを引き受けてから八ヶ月が経っていた。  後方から近づいてくる船があると報せを受けて、ギムリは船尾に立った。望遠鏡を覗いて、舌打ちをする。同業者の旗だ。海賊の船は襲わないと決めている。荷物を積んでいるとは限らないからだ。    しかし、相手船の行動は違った。  舷側を寄せて来て、先端に鉄の爪がついたロープを幾つも投げ込んできた。ギムリの船の旗は同業の間では知られている。たいていは素通りしていくのが(つね)だったが、たまに血気盛んな新参者が襲って来ることがあるのだ。    どこのどいつか知らないが、痛い目に合わせてやる。ギムリが鼻息を荒くして上甲板に上がると、向いの船の縁から見知った顔がこちらを見ていた。
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