夜明け

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 数時間後、産声は上がった。ランプの明かり一つを掲げた、狭い船室のベッドの上という、赤ん坊の誕生には似つかわしくない場所で。  一晩中付き添っていたギムリは、医術の心得がある仲間の一人と共に、産まれた赤ん坊をその手で受けとめていた。  丸い頬がエフローラにそっくりな男の子だ。 「見てみろ、オレたちの息子だ」  両手で抱えた赤ん坊を、汗だくになったエフローラの面前に差し出す。疲れ切った表情に喜びの笑みが浮かんだ。それを見て、ギムリの目が潤んだ。  なんて小さいんだろう。それなのに、何て重いんだろう。  抱く両手が温かみをかみしめる。  血の繋がりはなくても平気だと言いつつも、生まれた子を見て受け入れられなかったらどうしようと、心配はあった。しかしそれは全て杞憂(きゆう)だった。こんなに可愛いものが、この世に存在するなんて。  部屋の扉の向こうで聞き耳を立てていた仲間たちが、赤ん坊の泣き声を聞いて、喜びの声を上げているのが聞こえる。  頬が緩みっぱなしのギムリが再びエフローラに声をかけようとすると、彼女の顔はとても苦しそうだった。 「おい、どうしたんだ? 大丈夫か?」 「頭、出血が止まらないですぜ、こいつは、ヤバいかも……」  エフローラの足元を見て、仲間が不安そうに言う。ギムリは顔をしかめた。 「おい、お前、医者だろ? 何とかしろ」 「いやあ、銃創や刺し傷の類なら診慣れているんすが、出産は経験がないもんで……」 「それじゃ、エフローラが苦しむのを、このまま見ているだけか?」  ギムリは泣く赤ん坊を抱きながら、慌ててエフローラに顔を寄せた。 「しっかりしろ、お前なら頑張れる、負けるな」  ただ励ますしかなかった。さっきまで紅潮していた彼女の顔は真っ白だ。こんな時どうしたらいいのか、まるで分からない。焦りばかりが募る中で、彼女の唇が動くのを見た。聞き取れるかどうかの、か細い声に耳を澄ます。 「お願い……ダマー王に、知られないようにして……私たちの子、殺されてしまう……」 「ああ、もちろんだ。任せておけ。だから、行くな、傍にいてくれ」  ふっと息を吐くように頬を緩めて、彼女は言葉を紡いだ。 「海から、見守って……いるから……」  ゆっくりと閉じた瞼は、二度と開けることはなかった。まるで眠っているかのような、安らかな表情だけを彼女は残していった。
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