昼下がり

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 日が西に傾きかけた頃、カヌマの家の前に馬車の止まる気配がした。  仲間たちは床の上に寝転んでいるか、テーブルに突っ伏している。音に反応して顔を上げたのはギムリだけだった。仲介人はここへ来るのに馬車など使わない。 「おい、役人かもしれねえ」  仲間たちを起こし、ギムリは腰の短剣に手を伸ばした。そっと戸口に近づく。相手の人数は多くないだろうが、銃を振り回す奴に勝てる自信は酒が回っていない時だけだ。短剣を持つ手に力を入れ、カヌマに目線を送る。  平常心を装いながら、カヌマが扉を開ける。そこに立っていたのは背の曲がった白髪の男、いつもと変わらぬ仲介人の顔だった。 「待たせたね」 「なんだ、あんたかい。馬車で来るから誰かと思ったよ」 「ああ、驚かせてすまないねぇ」  カヌマがギムリに「大丈夫」と手で合図を送る。背後で身構えていた仲間たちは武器を下ろして安堵の息をついたが、ギムリだけは警戒を緩めていなかった。馬車が気になるのだ。戸口でのやり取りに耳を傾ける。 「ぜひ、ギムリの旦那に会いたいって人がいてね。ご一緒したんですよ」 「そういうのは先に連絡しておくれよ。で、誰なんだい?」 「はあ、それがね」  仲介人の背後から近づいて来たのは、身なりのいい老紳士だった。仲介人が南部の領主、ハイデルだと紹介をした。一歩前へ出た彼は扉の脇に立つギムリと目を合わせ、眼光を鋭くする。 「突然に失礼。君がギムリ君かね?」 「ああ、オレに何の用だ」  ギムリも睨みを返す。身分のある人間が海賊に対等な話しをすることはないと、昔から相場が決まっているのだ。 「運んで欲しいものがあるのだ。礼は幾らでもする」 「あんたなら船の手配くらい、楽に出来るだろうに。よほどヤバい品物なんだろうな」 「ああ、とてもね。行先はニューシタルハだ。すぐに出発して欲しい。頼めるかね?」  大洋を渡った先の地名のみならず、相手の急ぎぶりに警戒が働く。 「待てよ。何を運ぶのかまだ聞いてないぜ、爺さん」  ギムリはあえて挑発的な言い方をしたが、相手は気に留めなかった。 「それは、これだ」
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