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「えー改めまして。私の名前は、サキ」
「……はあ、どうも」
僕はまだこのキャラクターに名前をつけてはいなかったが、彼女は自ら“サキ”と名乗った。
線香花火の灯りで照らされたその笑顔はとても親し気で愛くるしい──だが僕は突き止めないといけない。何故僕が紙の上に描いたキャラクターが、目の前に生身の肉体らしきものを持って佇んでいるのか。
ゲームのやりすぎで、僕はついに頭がおかしくなってしまったのか? それだけはあまり考えたくなかった。
「蒼太。今日から4日間、ゲームのようでゲームよりも面白い場所を案内してあげる」
「……ゲームのようで、ゲームよりも面白い場所?」
僕はサキの言葉をおうむ返しに繰り返した。サキはうん、と愛嬌たっぷりに頷く。
「今から? どこへ?」
唐突な問いにたじろいでいるうちに、ぽたり、と線香花火の先端から音も無く火球が落ちる。サキのにっこり笑う顔がふっと闇夜に溶け込む。
視界がまた真っ暗になる中、サキが僕の手をそっと取った。
温かい手だ。人間の手。幻覚なんかじゃない──
急速に僕の意識は遠のいた。
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