1人が本棚に入れています
本棚に追加
──どれくらい時間が経ったのだろう。僕の両の瞼はいつしか固く閉じられていた。
軽い目眩と頭痛を覚えながらそっと目を開けてみると、僕は屋外の暗がりに立っていた。周囲に満ちる空気の匂いが、先ほどまでいたはずの名古屋の自宅の庭先とはまったく違う。見上げた夜空に輝く星の数も名古屋の空に見えるものとは比べ物にならないほど多い。そしておびただしい数の虫の鳴く声が鼓膜を圧迫してくる。
ここはどこなんだ──僕は必死に暗闇に目を凝らしてみたが、何も見えない。不安にかられた僕は思わずサキの姿を探した。
「さ……サキ、だっけ。どこにいるんだ?」
「いるいる、隣。ごめんね、暗くて怖いよね」
「怖くはないけど……」
隣に目をやると、サキの色白の顔がぼんやりと確認できる。僕は少しばかりほっとした。
心を落ち着かせて周囲の様子を探ろうとするが、屋外の草むららしき場所に立っているということ以外は感じ取れない。
「あの、ここは……」
「耳を澄ませてみて」
サキは凛とした声で囁く。耳を澄ませるまでもなく、あたりは盛大に鳴きまくる虫の声で満ちている。
「虫の声が凄い」
「ううん、もっとよく耳を澄ませてみて。聞こえてこない? ──機械の音が」
「機械……」
虫の声が凄すぎて他に何も聞こえないじゃないか、と思いながらも僕はサキの言う通りにじっと耳を澄ませてみた。
不意に、遠くのほうから何かが規則正しく回転しているような音が聞こえてくる。何か巨大な動力機関が稼働しているようなその音は、やがて地鳴りを伴って大きくなってゆく。
「何か……機械が動いてる?」
「前を見てみて」
サキに促されるまま、僕は前方に目を向けた。そこにはただの暗がりがあるばかりだが、大きな質量を持った何かがあるのを感じる──
僕はごくりと息を飲んだ。
最初のコメントを投稿しよう!