第1夜

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「8月13日。今日はお盆の入り、か」  テレビ画面には車の赤いテールランプが延々と流れる夜の高速道路が映し出されている。  風呂上がりで機嫌が良さそうな甚平姿の父さんが、帰省ラッシュの様子を淡々と告げるニュースキャスターの声で思い出したかのように呟いた。 「今年もまた、君は鹿児島に帰省する気にはなれなかったんだね」  刺身こんにゃくに箸を運びながら、父さんは斜向かいに座る母さんにやんわりとした口調で話しかけた。  母さんは一瞬だけちらりと父さんを見やると、枝豆の天ぷらを無言で口に運んだ。  僕も黙って母さんのほうをちらりと見た。  ……母さんは随分と複雑そうな顔をしている。
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