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何十年前かのあの日もこんなに暑かったのだろうか。
空は一点の曇りもないブルーだ。ちょうどサキの髪色と同じような、突き抜けた青。
絵に没頭し遅くまで起きていたわりには朝早く目覚めることの出来た僕は、庭の草木に水やりをしながら空を見上げた。まだ一日は始まったばかりだが蝉は全力で大合唱していて、水気を含んで目覚めた土のかぐわしい匂いがあたりに満ちている。
ぼんやりしながら水をまいた芝生を踏みしめるうちにいつしかサンダル履きの足はびしょ濡れになっていたが、真夏だとそれすら心地良く感じる。
──そういえば、子供の頃は従弟たちとよく川で水遊びをしたっけ。相当羽目を外したこともあったけど結局一度もケガをしたり溺れたりしなかったのは、河童が見守ってくれていたからなのかもしれない。
『イサ』は見知らぬ世界だ、だが深いまなざしの黒甲さんのことを思い返すと、不気味ではありつつもどこか懐かしさのようなものを覚える。
昨日の夢に感化され過ぎかも、と思いながらも僕はなんだか新たしい心持ちでいた。
終戦記念日の今日、昼食の用意された食卓を前にそれぞれがそれぞれの思いを込めながら黙とうを捧げた。
いつもより心なしか神妙な顔つきに見える母さんは、ミカンの載ったそうめんと一緒に平和を噛みしめているようだった。
僕も一瞬それに倣おうかという気になったが思いとどまった。
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