第3夜

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「……“過去と現代と未来をつなぐ”」  母さんはキャラクターの傍に僕が走り書きしたデザインコンセプトを声に出して読むと、小さく頷いた。 「まぁまぁ良いんじゃないの。古風なのと今風なのがミックスされてるデザインで」 「……まじで?」  僕は驚愕の眼差しで母さんを見た。──母さんは普段から僕のことを露骨に諫めない代わりに褒めることもしない。無感情なのではなく、意見を表明することに慎重なのだ。 「母さんに褒められるなんて、僕も捨てたもんじゃないのかも」 「いつ私が蒼太を見限ったのよ。……蒼太はこういう顔の子が好みなの?」 「い!? いや、そういうわけじゃないけど……」  思わぬ問いに僕は馬鹿正直にうろたえた。母さんは穏やかな表情でいて僕の反応を楽しんでいるかのようだった。 「でも好みじゃない顔立ちにはなかなか描けないものでしょ。まぁまぁいい趣味をしてると思うけど」 「…………」  母さんに絵の感想を言われることもそうだが、好みの女子のタイプの話をすることもほぼ初めてだ。  これ以上食いつかれると余計なことまで口走りそうだ。僕は違う種類の汗までかき始めた。 「ゲームとかマンガのことは母さん疎いけど、このテーマはいいと思うわ」 「……そ、そう。ありがとう」  僕の口から無意識のうちに謝辞が漏れる。母さんはかすかな笑みを口元に浮かべながら僕のスケッチブックを眺めた。  ──どうして母さんに絵を見せようという気になったのか、自分でもわからない。けど思い切って見せてみたら予想外の好い反応があった。  自分でデザインしたキャラクターを褒めてもらえるのは嬉しい。でもこのキャラクターが褒めてもらえるような出来になったのは、サキと会ったおかげなんだ。  サキの表情や物言い、そして不思議だけどどこか懐かしい『イサ』での出来事から得たインスピレーションをキャラクターのデザインに反映してみたら、彼女はどんどん素敵な少女になっていったんだ。  僕は胸の高鳴りを覚えながらスケッチブックの中の少女を見つめた。……父さんが言っていたように、母さんに少し似ているだろうか? いや、どうだろう。
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