第1夜

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 台所では母さんが食器を洗い、父さんは晩酌の続きをしている。居間と台所との境界にかけられた麻製の暖簾をくぐろうとした僕は、傍の新聞ラックの上に無造作に置かれた紙袋から覗く線香花火の束に目をやった。 「線香花火だ。これ、どうしたの?」 「あぁそれな。今日ホームセンターに行ったときに、おっ懐かしいな!と思って買ってきたんだ」  背中越しに話しかけると、父さんは酔いが回って気持ちよさそうに火照った顔で朗らかに答えた。  ──線香花火なんてここ数年やってないや。昔は家族と庭でよくやったなぁ。その代わり、友達と花火大会にはよく行くようになったけど。 「ちょっとやってみてもいい?」 「おぉ。火には気を付けるんだぞ」 「うん」 「あと蚊。家の中にも入らないようにしてな。蚊取り器を持って行けよ」 「うん。母さん、バケツってどこだっけ」 「洗面所の棚の下にあるわよ。大きいのと小さいの」  母さんは大量の洗い物と格闘しながら僕のほうは見ずに答える。僕は洗面所で小さいほうのバケツを見つけて水を汲むと、線香花火と電子式の蚊取り器を片手に縁側へと向かった。
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