1人が本棚に入れています
本棚に追加
「まさか…… そんな……」
庭先に佇んでいるのは、ただの少女ではなかった。
僕がついさっきまでスケッチブックの上でデザインしていたキャラクターと寸分違わぬ容姿の少女だった。
二尺袖にひざ丈の袴風スカート、ニーハイを履いた細い脚だけじゃない。暗がりでほのかに発光しているかのような空色~ミントグリーンのグラデーションを描くストレートのロングヘアまで僕のデザインを忠実に再現している。
──僕がデザインした少女だ。凄い、実物になるとなかなか可愛いじゃないか。
僕は線香花火を手にしたまま、驚きを通り越して見とれてしまった。
眼前の少女はどこか懐かし気な表情で僕を見つめている。意思の宿る生きた大きな瞳が、紙という平面に描かれたイラストとの最大の違いであり魅力かもしれない。言葉を失った僕の視線は少女に釘付けになっていた。
スケッチブックの中から飛び出してきたかのような少女は、何かをしゃべり出しそうな雰囲気を醸している。僕は少女の口元を注視した。
「おはんな蒼太……。ふとなったなぁ」
「……はい?」
可憐な声音とは裏腹の、奇妙に訛った言葉が少女の唇から発せられる。自分の名前以外の部分は一体何と言っていたのか、僕はまったく聞き取れなかった。
僕がきょとんとしていると少女は顔を赤らめ、慌てた手つきで袴風スカートのポケットと思われる場所から小型のスマホのような装置を取り出して操作し始めた。その手つきはスマホの操作に四苦八苦している機械音痴の父さんよりもさらにおぼつかない。僕は不覚にも愉快な心持ちになった。
僕の手元では線香花火が鈍い音を立てて最後の火花を散らしている。
少女は手の中の装置と真剣ににらめっこしながら、何やら小声で「標準語、若者、現代」とぶつぶつ呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!