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怖がってみた。【一縷】
葵を見つけたあの日のことを思うと、今でも、
年甲斐もなく胸が高鳴って、
もしかしたらこれが初恋なんじゃないかと、
初めて覚えた感情の、虜になる。
葵が泣いているあの美しい光景を、
俺は絶対に、忘れない。
忘れられない……
俺の家はアパレル関係の事業に色々手を出している、いわゆる裕福な家庭だった。
祖父は東京は東京でも下町の、ひっそりとした場所で、小さなオーダーメイドの紳士服店を商っていた。
そこから父が事業を拡大していったわけだが……俺は、
祖父のあの、真摯に服というものに向き合う姿勢が、
好きだった。あの生地にハサミを入れる音、動き、表情……亡くなった今も、思い出す。
小さい頃、学校が終わるといつも俺は祖父の店へ行って、窓から差し込む夕陽を浴びながら盲目に服を仕立てる祖父を見ていた。
あぁ俺も、祖父のようになりたい、とーー
そして現在に至る。
祖父が亡き今、〝SAEKI〟というブランドは祖父の意向と異なった形でのさばり続ける。
俺にはもう、…どうだって良かった。
男ばかりの三男坊だし、俺が何をやっても父は文句一つ言わなかった。
『お前は自分のしたい様にしろ』
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